令和5年度 秋期 応用情報技術者試験 午後問題 問9 顧客接点デジタル化プロジェクトのチーム編成と調達
この問題は2023(R5)秋 応用情報技術者 午後に出題されたものです。出題時点の法令・制度に基づく内容のため、現行の内容と一致しない場合があります。
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学習ガイド
金融サービス業の顧客接点デジタル化プロジェクトを題材に、プロジェクトチームのマネジメントと調達マネジメントを問う問題です。社内にないスキルを自社で習得するか他社へ委託するかを、プロジェクト完了後に何を残したいかまで見据えて決める判断が中心になります。採用した方針に合わせて役割分担・調達範囲・契約形態をどう設計するかが空欄で問われるため、この記事では内製と委託のトレードオフを整理し、各空欄を判断の帰結として20字以内に収める組み立て方を示します。
この記事で押さえる論点
- 内製とベンダー委託のどちらを採るかをプロジェクト完了後まで見据えて判断する
- 採用方針に応じた役割分担と調達範囲の設計を説明する
- 調達範囲・契約形態の選択理由を字数制限内で記述する
- スキル習得と業務委託のトレードオフを事例で整理する
出題情報
- 出題
- 2023(R5)秋 応用情報技術者 午後 問9
- 配点
- 20点満点
- 模範解答
- 公表(設問ごとに掲載)
出題趣旨・採点講評(IPA 公表)
顧客との関係性強化を目的とする顧客接点のデジタル化に関するプロジェクトでは,社内にないスキルを活用する場合,自社で習得するか,他社に業務委託するか,どちらの方法を採用するか,プロジェクト完了後のことも考えて決定する必要がある。また,採用した方法に適合するように,プロジェクトメンバーやベンダーの役割分担を計画し,これに基づき調達範囲や契約形態を決める必要がある。本問では,金融サービス業のプロジェクトを題材として,プロジェクトマネジメントの観点から,プロジェクトチームのマネジメントや調達マネジメントに関する知識と実践的な能力について問う。
問9では,金融サービス業のプロジェクトを題材として,プロジェクトマネジメントの観点からプロジェクトチームのマネジメントや調達マネジメントについて出題した。全体として正答率は平均的であった。
問題本文
新たな金融サービスを提供するシステム開発プロジェクトに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
A社は,様々な金融商品を扱う金融サービス業である。これまで,全国の支店網を通じて顧客を獲得・維持してきたが,ここ数年,顧客接点のデジタル化を進めた競合他社に顧客が流出している。そこで,A社は顧客流出を防ぐため,店頭での対面接客に加えて,認知・検索・行動・共有などの顧客接点をデジタル化し,顧客関係性を強化する新たな金融サービスを提供するために,新システムを開発するプロジェクト(以下,本プロジェクトという)の立ち上げを決定した。本プロジェクトはA社の取締役会で承認され,マーケティング部と情報システム部を統括するB役員がプロジェクト責任者となり,プロジェクトマネージャ(PM)にはマーケティング部のC課長が任命された。C課長は,本プロジェクトの立ち上げに着手した。
〔プロジェクトの立ち上げ〕
C課長は,プロジェクト憲章を次のとおりまとめた。
- プロジェクトの目的:顧客接点をデジタル化することで,顧客関係性を強化する新たな金融サービスを提供する。
- マイルストーン:本プロジェクト立ち上げ後6か月以内に,ファーストリリースする。ファーストリリース後の顧客との関係性強化の状況を評価して,その後のプロジェクトの計画を検討する。
- スコープ:機械学習技術を採用し,スマートフォンを用いて顧客の好みやニーズに合わせた新たな金融サービスを提供する。マーケティング部のステークホルダは新たな金融サービスについて多様な意見をもち,プロジェクト実行中はその影響を受けるので頻繁なスコープの変更を想定する。
- プロジェクトフェーズ:過去に経験が少ない新たな金融サービスの提供に,経験のない新たな技術である機械学習技術を採用するので,システム開発に先立ち,新たなサービスの提供と新たな技術の採用の両面で実現性を検証するPoCのフェーズを設ける。PoCフェーズの評価基準には,顧客関係性の強化の達成状況など,定量的な評価が可能な重要成功要因の指標を用いる。
- プロジェクトチーム:表1のメンバーでプロジェクトを立ち上げ,適宜メンバーを追加する。

図の説明テキスト
表1 プロジェクト立ち上げのメンバー
| 要員 | 所属 | スキルと経験 |
|---|---|---|
| C課長(PM) | マーケティング部 | CRM 導入プロジェクトの全体統括をした経験,アジャイル型開発プロジェクトに参加した経験がある。 |
| D主任 | マーケティング部 | 1年前から競合企業から転職してきたマーケティング業務の専門家。CRM や会員向け EC サイトのシステム開発プロジェクトに参加した経験がある。A社の業務にはまだ精通していない。 |
| E主任 | 情報システム部 | フルスタックエンジニア。データマートの構築,Java のプログラミング,インターネット上のシステム開発などの経験が豊富。機械学習技術の経験はない。 |
| F氏 | 情報システム部 | データエンジニア。データ分析,Python のプログラミング経験はあるが,機械学習技術の経験はない。 |
B役員は,プロジェクト憲章を承認し,次の点によく留意して,プロジェクト計画を作成するようにC課長に指示した。
- 顧客接点のデジタル化への機械学習の適用を,自社だけで技術習得して実施するか,他社に技術支援を業務として委託するか,今後のことも考えて決定すること。
- ベンダーに技術支援を業務委託する場合は,マーケティング部と情報システム部の従業員が,自分たちで使いこなせるレベルまで機械学習技術を習得する支援をしてもらうこと。また,新たな金融サービスの提供において,顧客の様々な年代層が容易に利用できるシステムの開発を支援できるベンダーを選定すること。なお,PoCでは,技術面の検証業務を実施し,成果として検証結果をまとめたレポートを作成してもらうこと。
- 同業者から,自社だけで機械学習技術を習得しようとしたが,習得に2年掛かったという話も聞いたので,進め方には留意すること。
C課長は,B役員の指示を受けてメンバーと検討した結果,本プロジェクトはPoCを実施する点と,リリースまでに6か月しかない点,a点を考慮し,アジャイル型開発アプローチを採用することにした。
C課長は,顧客接点のデジタル化への機械学習の適用を,自社だけで実施するか,他社に技術支援を業務委託するかを検討した。その結果,自社にリソースがない点と,b点を考慮し,PoCとシステム開発の両フェーズで機械学習に関する技術支援をベンダーに業務委託することにした。
また,C課長は,PoCを実施しても,既知のリスクとして特定できない不確実性は残るので,プロジェクトが進むにつれて明らかになる未知のリスクへの対策として,プロジェクトの回復力(レジリエンス)を高める対策が必要と考えた。
〔ベンダーの選定〕
C課長は,機械学習技術に関する技術支援への対応が可能なベンダー7社について,ベンダーから提示された情報を基に,機械学習技術に関する現在の対応状況を調査した。
この調査に基づき,C課長は,技術習得とシステム開発の支援の提案を依頼するベンダーを4社に絞り込んだ。その上で,ベンダーからの提案書に対して五つの評価項目を定め,ベンダーを評価することとした。
ベンダー4社に対して,提案を依頼し,提出された提案を基に,プロジェクトメンバーで評価項目について評価を行い,表2のベンダー比較表を作成した。

図の説明テキスト
表2 ベンダー比較表
| 評価項目 | 評価の観点 | P社 | Q社 | R社 | S社 |
|---|---|---|---|---|---|
| 事例数 | 金融サービス業の適用事例が豊富なこと | 3 | 3 | 3 | 4 |
| 定着化 | 習得した機械学習技術の定着化サポートを含むこと | 2 | 4 | 3 | 4 |
| 提案内容 | 他社と差別化できる技術であること | 4 | 3 | 4 | 3 |
| 使用性 | 顧客視点でのシステム開発ができること | 4 | 4 | 3 | 3 |
| 価格 | コストパフォーマンスが高いこと | 3 | 3 | 4 | 2 |
| 注記 評価項目の点数。1: 不足,2: やや不足,3: ほぼ十分,4: 十分 |
ベンダー比較表を基に,B役員の指示を踏まえて審査した結果,c社を選定した。B役員の最終承認を得て,①本プロジェクトのPoCの特性を考慮し,準委任契約で委託することにした。
C課長は,システム開発フェーズの途中で,技術支援の範囲拡大や支援メンバーの増員を依頼した場合の対応までのリードタイムや増員の条件について,②選定したベンダーに確認しようと考えた。
〔役割分担〕
C課長は,マーケティング部のステークホルダがもつ多様な意見を理解して,それを本プロジェクトのプロダクトバックログとして設定するプロダクトオーナーの役割が重要であると考えた。C課長は,③D主任が,プロダクトオーナーに適任であると考え,D主任に担当してもらうことにした。
C課長は,プロジェクトチームのメンバーと協議して,PoCでは,D主任の設定した仮説に基づき,プロダクトバックログを定め,プロジェクトの開発メンバーがベンダーの技術支援を受けて MVP(Minimum Viable Product)を作成することにした。そして,マーケティング部のステークホルダに試用してもらい,④あるものを測定することにした。
設問と解答・解説
設問1
〔プロジェクトの立ち上げ〕について答えよ。
(1)
本文中の a に入れる適切な字句を20字以内で答えよ。
模範解答
頻繁なスコープの変更を想定する
採点基準(配点 3点)
知識・理解度(内容)(2点)
- 2点: 顧客接点のデジタル化プロジェクトにおいて、プロジェクト立ち上げ時に考慮すべき「頻繁なスコープの変更」を過不足なく理解し記述できている。
- 1点: スコープの変更について言及しているが、頻度の高さについての理解がやや不足している。
- 0点: スコープの変更に関する言及がない、または内容が不適切。
論理性(構造)(1点)
- 1点: プロジェクトチームのマネジメント観点に沿って、首尾一貫した論理で解答が構成されている。
- 0点: 論理構成が破綻している、あるいは文脈として意味が通らない。
解説
プロジェクト立ち上げにおける考慮事項
顧客接点のデジタル化プロジェクトなど、不確実性の高いプロジェクトでは、アジャイルな手法や柔軟なアプローチが求められます。
初期の要求から状況の変化に応じて、頻繁なスコープの変更が発生することを前提として計画を立てる必要があります。
高得点のポイント
- 顧客接点デジタル化などのプロジェクト特性を理解しているか
- スコープの変更が頻繁に起こり得ることを記述しているか
(2)
本文中の b に入れる適切な字句を20字以内で答えよ。
模範解答
機械学習技術の習得の時間がない
採点基準(配点 3点)
知識・理解度(内容)(2点)
- 2点: 他社へ業務委託する判断基準として、自社における機械学習技術の習得時間が不足している状況を過不足なく記述できている。
- 1点: 技術の習得や時間不足について言及しているが、機械学習に関する記述が欠けているなどやや理解が不足している。
- 0点: 技術習得の時間不足に関する的確な言及がない。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 外部委託を採用する根拠として、因果関係が論理的かつ簡潔に構成されている。
- 0点: 理由としての因果関係が不明確で論理性に欠ける。
解説
外部委託の判断基準
社内にないスキル(本件では機械学習技術)をプロジェクトで活用する場合、自社で習得するか他社に業務委託するかを判断する必要があります。
自社の現状として、技術を習得するための時間的な余裕がないことが、他社へ業務委託する明確な根拠となります。
高得点のポイント
- 不足しているスキルが機械学習技術であることを特定しているか
- 技術を習得するための時間的余裕がない状況を明確に記述しているか
設問1(2)は,正答率が平均的であった。顧客接点のデジタル化を実現するために機械学習技術を採用する局面で,自社だけで実施せず他社に技術支援を業務委託するという判断をした際の着眼点について問うた。プロジェクトにおける重要な決定の際には,他社の事例だけでなく,自社の現状を正確に把握する必要がある点について,是非理解を深めてほしい。
設問2
〔ベンダーの選定〕について答えよ。
(1)
本文中の c に入れる適切な字句を,アルファベット1字で答えよ。
模範解答
Q
採点基準(配点 3点)
正確性(内容)(3点)
- 3点: 選定結果として正しいアルファベット「Q」が記述されている。
- 1点: アルファベット1字は記述されているが、正答ではない。(形式を満たしている部分点)
- 0点: 無解答、またはアルファベット1字以外の記述である。
解説
ベンダー選定の評価
各ベンダーから提出された提案を、事前に設定した評価項目に基づいて比較します。
表2などの評価結果から、最も要件に合致するベンダーを客観的に選定する必要があります。本件では Q が該当します。
高得点のポイント
- 正確に指定されたアルファベット1字「Q」が記述されているか
(2)
c 社を選定した理由を,表2の評価項目の字句を使って20字以内で答えよ。
模範解答
定着化と使用性の両方が最高点だから
採点基準(配点 3点)
知識・理解度(内容)(2点)
- 2点: 表2の評価項目である「定着化」と「使用性」の両方を適切に引用し、それらが最高点であることを的確に記述できている。
- 1点: 評価項目の引用はあるが、片方のみの言及や、最高点である理由の記載に不足がある。
- 0点: 指定された評価項目を用いた的確な理由付けがない。
論理性(構造)(1点)
- 1点: ベンダー選定理由として因果関係が明確で、日本語の構造として正しく成立している。
- 0点: 理由としての文脈が成立していない、または論理性が破綻している。
解説
選定理由の客観的説明
ベンダー選定の理由を説明する際は、設定した評価項目とそれぞれの得点を根拠にする必要があります。
選定された理由は、評価項目である 定着化 と 使用性 の両方において、他社より高い評価(最高点)を得たためです。
高得点のポイント
- 表2の評価項目である「定着化」と「使用性」を明記しているか
- それらが最高点(高評価)であることを論理的に記述しているか
(3)
本文中の下線①について,準委任契約で委託することにしたのは本プロジェクトの PoC の特性として何を考慮したからか。適切なものを解答群の中から選び,記号で答えよ。
模範解答
選択肢イ: 実現性を検証することが目的である。
配点 2点
解説
契約形態の判断
本プロジェクトにおける PoC (Proof of Concept) では、システムの完成よりも実現性の検証を目的としています。
そのため、完成責任を伴う請負契約ではなく、業務の遂行自体を目的とする準委任契約が適切であると判断されます。
各選択肢の解説
- ア: 既知のリスクとして特定できない不確実性は契約形態を決定する直接的な目的ではありません。
- イ: 正解。PoCの主たる目的は実現性の検証であり、準委任契約の性質と合致しています。
- ウ: 評価基準に重要成功要因の指標を用いることは、契約形態の選択理由とは関係ありません。
- エ: マーケティング部がMVPを試用することは、契約形態の法的性質に直接影響しません。
(4)
本文中の下線②について,C課長が,ベンダーに確認する目的は何か。25字以内で答えよ。
模範解答
システム開発フェーズの回復力を確かめるため
採点基準(配点 2点)
知識・理解度(内容)(1点)
- 1点: 調達マネジメントやプロジェクトの目的に照らし、システム開発フェーズにおける回復力を確かめる目的であることを正確に記述している。
- 0点: 回復力を確かめる目的についての的確な言及がない。
論理性(構造)(1点)
- 1点: ベンダーに確認する目的として、論理的に自然な文脈で簡潔にまとめられている。
- 0点: 文脈が不自然で論理性に欠ける。
解説
回復力(レジリエンス)の確認
システム障害や予期せぬ事象に対する対応力は、開発フェーズから考慮されるべきです。
C課長がベンダーに確認する目的は、システムの回復力(レジリエンス)やBCP(事業継続計画)の観点が、システム開発フェーズにおいて十分に確保されるかを確かめるためです。
高得点のポイント
- システム開発フェーズにおける確認であることが示されているか
- システムの回復力を確かめる目的が明記されているか
設問2(1)は,正答率がやや高く,調達マネジメントにおけるベンダーの比較方法については,よく理解されていることがうかがえた。
設問3
〔役割分担〕について答えよ。
(1)
本文中の下線③について,D主任がプロダクトオーナーに適任だと考えた理由は何か。30字以内で答えよ。
模範解答
マーケティング業務と開発プロジェクト参加の経験があるから
採点基準(配点 2点)
知識・理解度(内容)(1点)
- 1点: 顧客接点のデジタル化プロジェクトにおける役割分担として、マーケティング業務と開発プロジェクト参加の両方の経験が必要であることを正しく記述している。
- 0点: プロダクトオーナーに必要な経験についての言及が不十分である。
論理性(構造)(1点)
- 1点: プロダクトオーナーに適任である理由として、経験と適性の因果関係が明確に示されている。
- 0点: 理由としての因果関係が不明確である。
解説
プロダクトオーナーの適任条件
プロダクトオーナーには、ユーザー部門としての業務要件を正確に定義する能力と、システム開発に対する理解の両方が求められます。
D主任は、マーケティング業務の経験と、過去の開発プロジェクト参加の経験を併せ持っているため、要件定義と開発チームとの橋渡しの役割に最適です。
高得点のポイント
- 業務側の要件を理解するためのマーケティング業務経験に触れているか
- 開発側の状況を理解するための開発プロジェクト参加経験が盛り込まれているか
(2)
本文中の下線④について,測定するものとは何か。15字以内で答えよ。
模範解答
重要成功要因の指標の値
顧客関係性の強化の達成状況
採点基準(配点 2点)
知識・理解度(内容)(1点)
- 1点: プロジェクトの目的に合致する、重要成功要因の指標値または顧客関係性強化の達成状況を測定対象として正確に挙げている。
- 0点: 測定する対象の理解が不十分であり、的確に表現されていない。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 測定対象を示す名詞句として、無駄なく構造的に記述されている。
- 0点: 記述構造が不明確で、測定対象として読み取れない。
解説
プロジェクト成果の測定
プロジェクトの最終的な目的である「顧客関係性の強化」が達成されたかどうかを評価するためには、客観的な指標が必要です。
そのため、事前に定義した 重要成功要因(KSF)の指標値 を測定し、顧客関係性強化の達成状況を定量的に把握します。
高得点のポイント
- 重要成功要因の指標値、または顧客関係性の強化状況を測定対象としているか
- 簡潔かつ的確に測定するものを記述しているか