令和6年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問1 ゼロトラストへの移行とリモート環境構築
テクノロジセキュリティ技術
この問題は2024(R6)春 応用情報技術者 午後に出題されたものです。出題時点の法令・制度に基づく内容のため、現行の内容と一致しない場合があります。
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学習ガイド
リモートワーク環境の構築を題材に、境界型防御からゼロトラストへの移行で必要になるセキュリティ対策を問う問題です。EDRの動作、認証強化、構築案への指摘と追加対策など、出題は基本知識の確認が中心で本試験でも正答率は高めでした。取りこぼしが許されないタイプの問題なので、この記事では各対策が「どの通信・端末を信頼しない前提を補うものか」を一つずつ確かめながら、全空欄の根拠を固めます。
この記事で押さえる論点
- 境界型防御とゼロトラストの発想の違いを対策レベルで説明する
- EDR・多要素認証などの対策が防ぐ攻撃を対応付ける
- リモート環境構築案の弱点を指摘し追加対策を選択する
出題情報
- 出題
- 2024(R6)春 応用情報技術者 午後 問1
- 配点
- 20点満点
- 模範解答
- 公表(設問ごとに掲載)
出題趣旨・採点講評(IPA 公表)
従来,信頼できる内部のネットワークと信頼できない外部のネットワークを分離する,境界型防御によるセキュリティ対策が行われてきた。昨今のクラウドサービスの普及によって,外部のネットワークに保護すべきデータが置かれることが多くなり,いかなる通信も信頼しないゼロトラストの考え方が広まってきた。本問では,リモート環境の構築を題材として,境界型防御の環境からゼロトラスト環境への移行時に必要となるセキュリティ対策の基本的な知識を問う。
問1では,リモート環境の構築を題材に,境界型防御の環境からゼロトラスト環境への移行時に必要となるセキュリティ対策の基本的な知識について出題した。全体として正答率は高かった。
問題本文
問1 リモート環境のセキュリティ対策に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
Q社は,首都圏で複数の学習塾を経営する会社であり,各学習塾で対面授業を行っている。生徒及び生徒の保護者からはリモートでも受講が可能なハイブリッド型授業の導入要望があり,Q社の従業員からはテレワーク勤務の導入要望がある。
〔Q社の現状のネットワーク構成〕
Q社のネットワーク構成(抜粋)を図1に示す。

図の説明テキスト
図1 Q社のネットワーク構成(抜粋)の図。
中央の「インターネット」を中心に、各拠点が接続されている構成。
【学習塾1】
ルータがインターネットに接続されており、ルータの内側にFWがある。FWの内側にL2SWがあり、L2SWには複数のPCが接続されている。
【学習塾2〜学習塾n】
インターネットに接続されている(注記により学習塾1と同様の構成と説明されている)。
【本社】
ルータがインターネットに接続されており、ルータの内側にFWがある。FWの内側は2つに分岐し、それぞれ別のL2SWに接続されている。
・上のL2SWには、プロキシサーバとメールサーバが接続されている。
・下のL2SWには、ファイルサーバと複数のPCが接続されている。
FW: ファイアウォール、L2SW: レイヤー2スイッチ
注記 学習塾2〜学習塾nは学習塾1と同様の構成である。
〔Q社の現状のセキュリティ対策〕
Q社のセキュリティ対策は次のとおりである。
- パケットフィルタリングポリシーに従った通信だけをFWで許可し,その他の通信を遮断している。
- 業務上必要なサイトのURL情報を基に,URLフィルタリングを行うソフトウェアをプロキシサーバに導入して,業務上不要なサイトへの接続を禁止している。
- PC及びサーバ機器には,外部媒体の使用ができない設定をした上で,マルウェア対策ソフトを導入して,マルウェア感染対策を行っている。
- PC,ネットワーク機器及びサーバ機器には,脆弱性に対応する修正プログラム(以下,セキュリティパッチという)を定期的に確認した後,適用する方法で,脆弱性対策を行っている。
〔Q社の現状のセキュリティ対策に関する課題〕
- ネットワーク機器及びサーバ機器の EOL (End Of Life) 時期が近づいており,機器の更新が必要である。
- セキュリティパッチが提供されているかの調査及び適用してよいかの判断に時間が掛かることがある。
- ルータとFWを利用した①境界型防御によるセキュリティ対策では,防御しきれない攻撃がある。
- セキュリティインシデントの発生を,迅速に検知する仕組みがない。
Q社では,ハイブリッド型授業とテレワーク勤務が行えるリモート環境を実現し,Q社のセキュリティに関する課題を解決する新たな環境を,クラウドサービスを利用して構築することになり,情報システム部のR課長が担当することになった。
〔リモート環境の構築方針〕
R課長は,境界型防御の環境に代えて,いかなる通信も信頼しないという a の考え方に基づくリモート環境を構築することにした。
R課長は,リモート環境について次の構築方針を立てた。
- クラウドサービスへの移行に伴い,ネットワーク機器及びサーバ機器は廃棄し,今後の Q社としての EOL対応を不要とする。
- ②課題となっている作業を不要にするために,クラウドサービスは SaaS型を利用する。
- セキュリティインシデントの発生を迅速に検知する仕組みを導入する。
- 従業員にモバイルルータとセキュリティ対策を実施したノートPC(以下,貸与PCという)を貸与する。今後は,本社,学習塾及びテレワークでの全ての業務において,貸与PCとモバイルルータを使用してクラウドサービスを利用する。
- 貸与PCから業務上不要なサイトへの接続は禁止とする。
- 生徒は,自宅などのPC(以下,自宅PCという)からクラウドサービスを利用してリモートでも授業を受講できる。
〔リモート環境構築案の検討〕
R課長はリモート環境の構築方針を部下のS君に説明し,構築する環境の検討を指示した。
S君はリモート環境構築案を検討した。
- リモート環境の構築には,T社クラウドサービスを利用する。
- 貸与PCからWebサイトを閲覧する際は,③プロキシを経由する。
- 貸与PCからインターネットを経由して接続するWeb会議,オンラインストレージ及び電子メール(以下,メールという)を利用することで,Q社の業務及びリモートでの授業を行う。
- 貸与PCからT社クラウドサービスへのログインは,ログインを集約管理するクラウドサービスであるIDaaS(Identity as a Service)を利用する。従業員はIDとパスワードを用いてシングルサインオンで接続してクラウドサービスを利用する。
- ④SIEM(Security Information and Event Management)の導入と,アラート発生時に対応する体制の構築を行う。
- 貸与PCには,マルウェア対策ソフトを導入し,外部媒体が使用できない設定を行う。また,⑤紛失時の情報漏えいリスクを低減する対策をとる。
- 生徒は,自宅PCからインターネット経由で,Web会議に接続して,リモートで授業を受講できる。
S君が検討したリモート環境構築案(抜粋)を図2に示す。

図の説明テキスト
図2 リモート環境構築案(抜粋)
システム構成を示すネットワーク図。
上部に「T社クラウドサービス」という大きな枠があり、内部に「Web会議」「オンラインストレージ」「メール」「プロキシ」「IDaaS」「SIEM」の6つの枠が配置されている。
中央に「インターネット」を表す雲形の図形がある。
下部には「従業員」と「貸与 PC」(枠囲み)、「生徒」と「自宅 PC」(枠囲み)が配置されている。
「T社クラウドサービス」「貸与 PC」「自宅 PC」は、それぞれ実線で中央の「インターネット」と接続されている。
〔構築案への指摘と追加対策の検討〕
S君は検討した構築案についてR課長に説明した。すると,セキュリティ対策の不足に起因するセキュリティインシデントの発生を懸念したR課長は,“a では,クラウドサービスにアクセスする通信を信頼せずセキュリティ対策を行う必要があるので,エンドポイントである貸与PCと自宅PCに対する攻撃への対策及びクラウドサービスのユーザー認証を強化する対策が必要である。追加の対策を検討するように。”と指摘した。
R課長が懸念したセキュリティインシデント(抜粋)を表1に示す。

図の説明テキスト
表1 R課長が懸念したセキュリティインシデント(抜粋)
| 項番 | 分類 | セキュリティインシデント |
|---|---|---|
| 1 | 貸与 PC | ゼロデイ攻撃によるマルウェア感染 |
| 2 | 貸与 PC | ファイルレスマルウェア攻撃によるマルウェア感染 |
| 3 | 自宅 PC | マルウェア感染した自宅 PC から Web 会議への不正アクセス |
| 4 | クラウドサービスのユーザー認証 | 不正ログインによる情報漏えい |
S君は,R課長の指摘に対して,表1のセキュリティインシデントに対応した次の対策を追加することにした。
- 項番1,2の対策として,貸与PCに⑥EDR (Endpoint Detection and Response) ソフトを導入する。
- 項番3の対策として,T社クラウドサービスは不正アクセス及びマルウェア感染の対策がとられていることを確認した。
- 項番4の対策として,知識情報であるIDとパスワードによる認証に加えて,所持情報である従業員のスマートフォンにインストールしたアプリケーションソフトウェアに送信されるワンタイムパスワードを組み合わせて認証を行う,b を採用する。
S君は,これらの対策を追加した構築案をR課長に報告し,構築案は了承された。
設問と解答・解説
設問1
本文中の下線①について,防御できる攻撃を解答群の中から選び,記号で答えよ。
模範解答
選択肢イ: パケットフィルタリングのポリシーで許可していない通信による,内部ネットワークへの侵入
配点 2点
解説
境界型防御は、信頼できる内部ネットワークと信頼できない外部ネットワークの境界にファイアウォール等の機器を配置し、不正な通信をブロックするセキュリティモデルです。
各選択肢の解説
- ア:内部犯行は内部ネットワークで発生するため、境界での防御をすり抜けます。
- イ:正解。 パケットフィルタリングで許可していない外部からの通信は、境界(ファイアウォール等)でブロックされるため防ぐことができます。
- ウ:内部から外部への通信を起点とするマルウェア感染(添付ファイル開封など)は、通常のWebアクセスやメール受信として扱われるため、境界型防御のみでの検知・防御は困難です。
- エ:境界機器(ルータ等)自体の脆弱性を突く攻撃は、境界型防御の仕組みそのものを無効化するため、機器のアップデート等の対策が必要となります。
設問1は,正答率が高く,境界型防御に関する理解が高いことがうかがえたが,設問2(1)は正答率が低かった。近年,境界型防御に基づいたセキュリティモデルではサイバー攻撃を防ぎきれなくなっており,ゼロトラストに基づいたセキュリティモデルが広まっているので,理解しておいてほしい。
設問2
〔リモート環境の構築方針〕について答えよ。
(1)
本文中の 空欄a に入れる適切な字句を6字で答えよ。
模範解答
ゼロトラスト
採点基準(配点 3点)
正確性(内容)(3点)
- 3点: 「ゼロトラスト」と完全に一致する解答をしている。
- 1点: 意味合いは通じるが、指定された用語と完全に一致しない、または部分的な解答になっている。
- 0点: 無解答、または全く異なる語句を解答している。
解説
正解の根拠
すべての通信を無条件には信頼せず、アクセスがあるたびにデバイスの状態やユーザーの認証・認可を厳密に行うセキュリティモデルを ゼロトラスト と呼びます。
高得点のポイント
- クラウドの普及によりネットワークの境界があいまいになった現代における必須のセキュリティ概念である「ゼロトラスト」を、正確に解答できていること。
(2)
本文中の下線②について,課題となっている作業を25字以内で答えよ。
模範解答
セキュリティパッチ提供の調査及び適用の判断
採点基準(配点 3点)
知識・理解度(内容)(2点)
- 2点: セキュリティパッチ提供の「調査」と「適用の判断」の両方の要素が過不足なく含まれている。
- 1点: セキュリティパッチ提供の「調査」と「適用の判断」のいずれか一方の要素のみが含まれている。
- 0点: 必要な要素が含まれていない。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 文意が明確であり、課題としての説明が自然である。
- 0点: 日本語として不自然であるか、意味が通じない。
解説
正解の根拠
ソフトウェアの脆弱性を突くサイバー攻撃を防ぐためには、公開されたパッチを把握し、自社環境に適用するかどうかを判断するプロセスが必要です。パッチ管理において課題となるのは、パッチが公開されたことを知るための「調査」と、それを自社のシステムに「適用するかどうかの判断」となります。
高得点のポイント
- セキュリティパッチの 提供の調査 について言及していること。
- セキュリティパッチの 適用の判断 について言及していること。
- これら2つの要素を25字以内で簡潔にまとめていること。
設問1は,正答率が高く,境界型防御に関する理解が高いことがうかがえたが,設問2(1)は正答率が低かった。近年,境界型防御に基づいたセキュリティモデルではサイバー攻撃を防ぎきれなくなっており,ゼロトラストに基づいたセキュリティモデルが広まっているので,理解しておいてほしい。
設問3
〔リモート環境構築案の検討〕について答えよ。
(1)
本文中の下線③で実現すべきセキュリティ対策を,本文中の字句を用いて15字以内で答えよ。
模範解答
URLフィルタリング
業務上不要なサイトへの接続禁止
採点基準(配点 3点)
正確性(内容)(3点)
- 3点: 「URLフィルタリング」または「業務上不要なサイトへの接続禁止」と完全に一致している。
- 1点: 解答要素は含んでいるが、本文中の字句と完全に一致しない(不要な文字の混入など)。
- 0点: 無解答、または全く異なる部分を抜き出している。
解説
正解の根拠
従業員のWebアクセスにおいて、セキュリティ上の脅威を防ぐためには、不正なサイトや業務に関係ないサイトへのアクセスを制限する URLフィルタリング(または 業務上不要なサイトへの接続禁止)が有効です。
高得点のポイント
- 本文中に存在する該当字句を、文字数(15字以内)に合わせて正確に抜き出していること。
(2)
本文中の下線④を導入した目的を,〔Q社の現状のセキュリティ対策に関する課題〕と〔リモート環境の構築方針〕とを考慮して30字以内で答えよ。
模範解答
セキュリティインシデントの発生を迅速に検知するため
採点基準(配点 3点)
知識・理解度(内容)(2点)
- 2点: 「セキュリティインシデントの発生」と、それを「迅速に検知する」という目的が両方示されている。
- 1点: インシデント検知に関する言及はあるが、「迅速性」などの要素が欠けている。
- 0点: SIEM導入の目的に関する適切な記述がない。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 「〜するため」といった目的を示す適切な文末表現でまとまっている。
- 0点: 文末が不自然であるか、論理的に破綻している。
解説
正解の根拠
SIEM(Security Information and Event Management)は、複数の機器やソフトウェアから出力されるログを一元的に集約し、相関分析する仕組みです。
導入の主目的は、単一の機器のログだけでは発見が困難な セキュリティインシデント を 迅速に検知 することにあります。
高得点のポイント
- インシデントの発生 という事象を対象としていること。
- 迅速に検知する という目的を明記していること。
- 目的を問う設問に対し、「〜ため」といった適切な文末表現になっていること。
(3)
本文中の下線⑤について,対策として適切なものを解答群の中から全て選び,記号で答えよ。
模範解答
選択肢ア: 貸与PCのストレージ全体を暗号化する。
選択肢ウ: リモートロック及びリモートワイプの機能を導入する。
配点 2点
解説
正解の根拠
端末の紛失や盗難に備えた情報漏洩対策が問われています。端末内にデータが残っている場合、ストレージの暗号化 や、遠隔操作による リモートロック・リモートワイプ が有効な対策となります。
各選択肢の解説
- ア:正解。 貸与PCのストレージ全体を暗号化しておくことで、物理的にドライブを抜き取られてもデータの読み出しを困難にできます。
- イ:貸与PCのモニターののぞき見防止フィルムは、背後から画面を見られるショルダーハッキング対策であり、紛失・盗難対策ではありません。
- ウ:正解。 紛失時に遠隔操作で端末をロックしたり、データを消去(ワイプ)したりすることで、第三者による不正アクセスや情報漏洩を防ぐことができます。
設問3(2)は,正答率が高く,SIEMに関する理解が高いことがうかがえた。様々な機器で出力されるログを一元的に集約して相関分析することは,インシデントを迅速に検知する上で重要である。
設問4
〔構築案への指摘と追加対策の検討〕について答えよ。
(1)
本文中の下線⑥について,表1の項番1,2のセキュリティインシデントが発生した場合のEDRソフトの動作として適切なものを解答群の中から選び,記号で答えよ。
模範解答
選択肢ア: 貸与PCをネットワークから遮断し,不審なプロセスを終了する。
配点 2点
解説
正解の根拠
EDR(Endpoint Detection and Response)は、エンドポイント(PCなどの端末)における不審な挙動を検知(Detection)し、事後対応(Response)を支援する仕組みです。
各選択肢の解説
- ア:正解。 インシデント発生時に被害の拡大を防ぐため、貸与PCをネットワークから遮断(隔離)し、不審なプロセスを終了させるのは、EDRの代表的な事後対応(Response)機能です。
- イ:振る舞い検知によってマルウェアの侵入そのものを「防御」するのは、EPP(Endpoint Protection Platform)やNGAV(次世代アンチウイルス)の主な役割です。
- ウ:登録した機密情報の外部へのデータ送信をブロックする機能は、DLP(Data Loss Prevention)システムの役割です。
- エ:パターン情報に基づくマルウェアの侵入防御は、従来型のアンチウイルスソフト(EPP)の役割です。
(2)
本文中の 空欄b に入れる適切な字句を5字で答えよ。
模範解答
多要素認証
2要素認証
多段階認証
2段階認証
採点基準(配点 2点)
正確性(内容)(2点)
- 2点: 「多要素認証」「2要素認証」「多段階認証」「2段階認証」のいずれかを解答している。
- 1点: 認証方式に関する解答であるが、空欄に当てはまる正確な用語ではない。
- 0点: 無解答、または不適切な語句を解答している。
解説
正解の根拠
IDとパスワードという単一の知識情報のみでは、漏洩時のリスクが高くなります。そのため、所持情報(スマートフォンへのSMS通知やハードウェアトークンなど)や生体情報(指紋認証・顔認証など)を組み合わせて認証を行う仕組みを 多要素認証(または 2要素認証 など)と呼びます。
高得点のポイント
- ゼロトラスト環境の前提となる、強固な認証方式の名称を正確に解答できていること。