令和6年度 秋期 応用情報技術者試験 午後問題 問11 AIチャットボット導入計画の監査
この問題は2024(R6)秋 応用情報技術者 午後に出題されたものです。出題時点の法令・制度に基づく内容のため、現行の内容と一致しない場合があります。
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学習ガイド
AIを応用したチャットボットの導入計画を対象とするシステム監査の問題です。監査手続案の空欄を埋める形式ですが、単なる穴埋めではなく、開発計画の適切性を確かめるにはどのコントロールを見るべきかという監査の発想が要求されます。この記事では、機械学習システムならではの確認事項と一般的な開発計画監査の確認事項を切り分け、各空欄が試している観点を明らかにしていきます。
この記事で押さえる論点
- 開発計画の監査で確認すべきコントロールを監査手続案から特定する
- 機械学習特有のリスク(学習データ・精度評価)を監査の観点に翻訳する
- 監査手続の空欄を「何を確かめるための手続か」から逆算して埋める
出題情報
- 出題
- 2024(R6)秋 応用情報技術者 午後 問11
- 配点
- 20点満点
- 模範解答
- 公表(設問ごとに掲載)
出題趣旨・採点講評(IPA 公表)
昨今,監査対象とすべき重要なシステムにAIを応用したシステムを活用することが多くなってきている。監査人には,機械学習やディープラーニングなどの知識がますます求められている。
本問では,AIを応用したチャットボット導入における開発計画を題材として,開発計画の適切性について監査で確認すべきコントロール及び監査手続を検討する能力を問う。
問11では,AIを応用したチャットボット導入における開発計画の監査を題材に,開発計画の適切性について監査で確認すべきコントロール及び監査手続について出題した。全体として正答率は平均的であった。
問題本文
問11 チャットボット導入における開発計画の監査に関する次の記述を読んで、設問に答えよ。
W社は,中堅の家電メーカーである。顧客サービス部では,製品の特徴や使用方法に関する顧客からの問合せなどに回答するコールセンターを運用しており,Web上で顧客からの問合せに対し,定型文で自動的に回答するチャットボット(以下,現行CBという)で作業効率を向上させてきた。
問合せ内容をより的確に解釈するなど,回答の品質向上のために,顧客サービス部長がシステムオーナーとなり,現行CBのベンダーが提供する,ディープラーニングを利用していない機械学習方式のチャットボット(以下,新CBという)を導入するプロジェクトを立ち上げることになった。
企画プロセスの完了を受けて,W社監査部のシステム監査チームは,新CBの開発計画の適切性について監査を実施することになった。そのために実施した予備調査の結果,次のことを把握した。
〔予備調査の結果〕
(1) 現行CBの概要と課題
① W社では,季節性のある製品を多く取りそろえているので,顧客から寄せられる問合せ数は,季節性のある製品では季節によって偏りがある。
② 現行CBでは,顧客が入力した曖昧な言葉に対応できず,FAQに回答が存在するにもかかわらず,問合せを解釈できずに回答が表示されないことや,誤った回答を表示することがある。顧客が現行CBの回答では不十分と感じた場合には,顧客からの要望で,コールセンターのオペレーターが代わって問合せ対応を実施している。
③ 導入効果をモニタリングするために,顧客の入力テキスト,現行CBが表示した回答,現行CBの回答に対して“役立った”かどうかの結果などを,CB回答履歴として保存している。これらの情報を分析し,顧客から“役立った”という評価を得た割合(以下,回答満足率という)を効果測定の指標の一つにしている。
④ 新製品については,発売に合わせて新規にFAQを知識ベースに登録している。今回のプロジェクト期間中にも,発売が予定されている新製品が複数ある。
⑤ 現行 CB を導入した際には,受入テストを顧客サービス部員が参加せずに開発担当者だけが実施したことから,新製品に関する問合せに対して適切に回答できないなど,本番移行後に混乱を招く問題点があった。
(2) プロジェクトの概要
これまで,企画プロセスにおいて新 CB 導入の目的の明確化,システム化計画の立案,及び PoC(Proof of Concept:概念実証)を実施しており,PoC の結果は品質向上の効果を見込めるものであった。現在,開発計画書案を顧客サービス部とシステム部が共同で作成したところである。関係する役員,及び財務部,顧客サービス部,システム部の各部長で構成するプロジェクト運営委員会で開発計画書案を承認する予定である。
今後の開発プロセスにおいて要件定義,追加の機械学習を含む設計,実装,テスト,受入テスト,及び本番移行を予定している。新 CB の機能構成を図 1 に示す。

図の説明テキスト
図1 新CBの機能構成
システムのデータフローと構成要素を示す図。
・「学習用データ」「テスト用データ」「手作業入力データ」が「学習機能」へ入力される。
・「学習機能」から「類義語DB」へ矢印が向かっている。
・「類義語DB」は「回答機能」と連携している(線で結ばれている)。
・「回答機能」の内部には「知識ベース」が含まれている。
・「顧客」(人型のアイコン)と「回答機能」の間でやり取りがある。「顧客」から「回答機能」へ「問合せ」の矢印が向き、「回答機能」から「顧客」へ「回答」の矢印が向いている。
(3) 新 CB の機能概要と機械学習
① 回答機能には,現行 CB よりも改良した知識ベースを備えており,新 CB においても新製品の発売に合わせて FAQ を知識ベースに登録する。新 CB では,類似する言葉を整理して,言葉の関連度合いを格納している用語データベース(以下,類義語 DB という)が備わっている。回答機能では,顧客の入力テキストを自然言語処理し,類義語 DB と突き合わせることで,顧客の曖昧な言葉遣いに対してある程度問合せ対応可能であり,回答満足率の向上が期待できる。
② 新 CB の類義語 DB は,ベンダーからの納入時には一般的な語句だけに対応している。W 社製品に関する語句などを類義語 DB に反映するには,二つの方法がある。一つ目は,手作業入力データを基に学習機能に備わる手作業入力機能によって,類義語 DB を整備する方法である。二つ目は,現行 CB の CB 回答履歴から抽出した文章を自然言語処理によって品詞別に分解し,AIモデルによって機械学習することで類義語DBを整備する方法である。
PoCでは,機械学習によって類義語DBを整備する際のサーバ処理に想定以上の時間を要していた。
③ PoCにおける機械学習による類義語DBの整備では,現行CBのCB回答履歴から6か月分を学習用データ及びテスト用データとして,ランダムに抽出した。また,回答満足率を指標にして,効果の目標レベルを定め,新CBの有効性を判断している。
④ 新CBでは,設計において,追加の機械学習によって類義語DBの精度を高め,回答満足率を上げる想定である。設計後においても,本番運用向けの類義語DBの学習では,再学習を実施する。
〔監査手続案の作成〕
予備調査の結果を踏まえて,システム監査チームが作成した監査手続案(抜粋)を表1に示す。

図の説明テキスト
表1 監査手続案(抜粋)
| 項番 | 想定されるリスク | 監査手続 |
|---|---|---|
| 1 | 追加の機械学習後のテスト結果では効果があったにもかかわらず,本番運用において効果が認められない。 | 開発計画書案を閲覧し,追加の機械学習におけるa用データとテスト用データを別に準備していることを確認し,評価する計画になっているかどうか確かめる。 |
| 2 | 類義語DBの整備が不十分であったことによって,新製品に関する質問に対して,新CBが適切な回答をしない。 | 開発計画書案を閲覧し,発売前の新製品に関して適切に回答するために,b機能による類義語DBの整備を実施する計画を策定しているかどうか確かめる。 |
| 3 | 受入テスト結果では当初予定の導入効果がなかったにもかかわらず,再学習などの対応を実施せず,本番運用に移行する。 | 開発計画書案を閲覧し,本番移行の可否判断で使用する適切な評価項目とその項目に設定した具体的な効果のcが定められているかどうか確かめる。 |
| 4 | テストにおいて不具合を発見した際に原因箇所の特定に時間を要したり,同じ不具合が本番運用で発生したりする。 | 開発計画書案を閲覧し,次を実施する計画になっているかどうか確かめる。 ・テストの手順が策定され,手順にのっとりテストを実施する。 ・テスト結果と不具合の対応状況を文書化して保管するとともに,プロジェクト関係者によるdを適切に実施する。 |
〔監査部長の指示〕
監査部長は,監査手続案をレビューして,次のとおりシステム監査チームに指示した。
(1) 表1項番1について,設計における追加の機械学習では,類義語DBの整備がスケジュールどおり完了しないおそれがある。機械学習を実行するサーバに対する非機能要件の一つであるeが,PoCを実施した際の実績データから導いた要件になっているか確かめること。
(2) 表1項番2について,新製品だけでなく,現行のfに関する問合せへの回答について,学習用データが不十分で,適切に回答できないおそれがある。設計における追加の機械学習では,製品を網羅する観点から学習用データを準備する計画になっているか確かめること。
(3) 表1項番3について,新CBの有効性を確保するために,gに先立って,プロジェクト運営委員会が,当初予定の導入効果が得られる見込みを評価する計画になっているか確かめること。
(4) 追加する監査手続として,現行CB導入時における問題点を踏まえて,今後の開発プロセスにおいて顧客サービス部によるhが適切に実施される計画になっているか確かめること。
設問と解答・解説
設問1
表1の監査手続案について答えよ。
(1)
表1中のaに入れる適切な字句を、5字以内で答えよ。
模範解答
学習
採点基準(配点 3点)
知識・理解度(内容)(2点)
- 2点: AIモデルのトレーニング工程を指す概念(学習)を正確に理解し記述できている。
- 1点: AIに関するデータ処理の概念を部分的に理解しているが、適切な専門用語が用いられていない。
- 0点: 題意に沿った解答が記述されていない。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 監査文脈において前後の文章と整合する適切な名詞として構成されている。
- 0点: 文脈に合わない不自然な語句となっている。
解説
正解の根拠
AIを応用したシステムにおいて、モデルの精度を高めるためには適切なデータを用いた 学習 が不可欠です。本問ではAIチャットボット導入における開発計画の監査として、AIモデルに対するトレーニングプロセスの適切性を確認するコントロールが問われています。
高得点のポイント
- AIのモデル構築において、データを用いた 学習 工程が存在することを理解していること。
- 監査手続の文脈に適合する適切な用語として解答できること。
(2)
表1中のbに入れる適切な字句を、5字以内で答えよ。
模範解答
手作業入力
採点基準(配点 3点)
知識・理解度(内容)(2点)
- 2点: 自動処理の例外や補正のために必要なプロセス(手作業入力)を正確に理解し記述できている。
- 1点: 補正プロセスの概念を部分的に理解しているが、適切な用語に落とし込めていない。
- 0点: 題意に沿った解答が記述されていない。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 監査手続の文脈として整合する表現が用いられている。
- 0点: 前後の文脈と繋がらない不適切な表現となっている。
解説
正解の根拠
システムの自動処理においてエラーが発生した場合や、例外的なデータを処理する場合には、手作業入力 によるデータの補正や追加が必要となります。監査においては、この手作業入力時のコントロール(承認や記録など)が適切に設計されているかを確認します。
高得点のポイント
- システムの自動処理に対する例外対応・補完手段として 手作業入力 の必要性を理解していること。
- 適切な用語を用いて簡潔に解答できること。
(3)
表1中のcに入れる適切な字句を、本文中の字句を用いて5字以内で答えよ。
模範解答
目標レベル
採点基準(配点 3点)
正確性(内容)(3点)
- 3点: 本文中の適切な箇所から「目標レベル」を過不足なく抜き出している。
- 1点: 該当箇所を特定できているが、不要な文字が含まれている等の軽微な不備がある。
- 0点: 不適切な箇所を抜き出している、または解答がない。
解説
正解の根拠
AIチャットボットの本番運用において、導入効果が想定を下回るリスクを低減するためには、移行を判断するための基準が必要です。講評にある通り、「回答満足率」などの評価項目に対して、本番移行を実施してもよい水準である 目標レベル をあらかじめ定めておく必要があります。
高得点のポイント
- 本番移行の可否判断に必要な評価項目の水準を示す言葉として、本文中から 目標レベル を正確に抜き出せていること。
(4)
表1中のdに入れる適切な字句を、5字以内で答えよ。
模範解答
レビュー
採点基準(配点 3点)
知識・理解度(内容)(2点)
- 2点: 客観的評価や確認のプロセスとして「レビュー」の重要性を正確に理解し記述できている。
- 1点: 評価プロセスであることは理解しているが、一般的な監査用語とは言い難い表現となっている。
- 0点: 題意に沿った解答が記述されていない。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 手続の名称として適切な名詞が用いられている。
- 0点: 文脈に合わない表現となっている。
解説
正解の根拠
開発計画やテスト計画、移行計画の適切性を確認するためには、第三者や責任者による レビュー が実施されていることが重要です。IT監査において、承認や確認のプロセスとしてレビューの実施証跡を確認することは基本的な監査手続となります。
高得点のポイント
- 計画や成果物の品質を担保するためのコントロールとして レビュー の重要性を理解していること。
- 監査手続における一般的な用語として適切に解答できること。
設問1(2)cは,正答率が平均的であった。評価項目として設定されている内容を求めたが,“回答満足率”のような評価項目そのものを記述した解答が散見された。本番移行の可否判断を適切に実施するためには,評価項目として本番移行を実施してもよい水準を定めておく必要があることを理解してほしい。
設問2
〔監査部長の指示〕について答えよ。
(1)
本文中のeに入れる最も適切な字句を解答群の中から選び、記号で答えよ。
模範解答
選択肢イ: 性能要件
配点 2点
解説
正解の根拠
システム要件のうち、応答時間や処理能力、スループットに関する要件は 性能要件 と呼ばれます。AIチャットボットが想定されるユーザー数やアクセス頻度に対して十分な応答速度を保てるかを定義する重要な要素です。
各選択肢の解説
- ア 外部インタフェース要件: システムが他のシステムやユーザーとデータをやり取りする際の形式や通信プロトコルなどを定義する要件であり、誤りです。
- イ 性能要件: 応答時間や処理件数など、システムが発揮すべき性能を示す要件であり、正解です。
- ウ セキュリティ要件: 不正アクセス対策やデータ保護、機密性・完全性・可用性の確保に関する要件であり、誤りです。
- エ 保守性要件: 障害時の復旧のしやすさや、将来のシステム改修の容易さに関する要件であり、誤りです。
(2)
本文中のfに入れる適切な字句を、10字以内で答えよ。
模範解答
季節性のある製品
採点基準(配点 2点)
知識・理解度(内容)(1点)
- 1点: 問い合わせ傾向に変動をもたらす要因(季節性のある製品など)を正確に理解し記述できている。
- 0点: 題意から外れた解答となっている。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 文脈に適合する自然な名詞句として構成されている。
- 0点: 文脈に合わない不適切な表現となっている。
解説
正解の根拠
チャットボットへの問い合わせ内容は、時期によって大きく変動する可能性があります。特に 季節性のある製品 に関する問い合わせは、特定の時期に集中したり、時期によって質問の傾向が変わったりするため、年間を通したテストデータを用意するなど、特別な考慮が必要です。
高得点のポイント
- ユーザーからの問い合わせ傾向が時期によって変動する要因として、季節性のある製品 の存在を理解していること。
- 与えられた文字数制限の中で適切に表現できること。
(3)
本文中のgに入れる適切な字句を、10字以内で答えよ。
模範解答
本番移行
採点基準(配点 2点)
知識・理解度(内容)(1点)
- 1点: システム開発における最終的な移行フェーズ(本番移行)を正確に理解し記述できている。
- 0点: 題意から外れた解答となっている。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 文脈に適合する適切な専門用語が用いられている。
- 0点: 文脈に合わない不適切な表現となっている。
解説
正解の根拠
サブ設問解説(講評)にもあるように、導入システムの効果が当初想定に達しないリスクを低減するためには、遅くとも 本番移行 の前までに効果を含めて導入システムを評価し、移行の可否を判断する必要があります。
高得点のポイント
- システム開発ライフサイクルにおいて、システムを実際の業務環境へ移行させる重要なマイルストーンが 本番移行 であることを理解していること。
- 文脈に沿った適切な用語で解答できていること。
(4)
本文中のhに入れる適切な字句を、10字以内で答えよ。
模範解答
受入テスト
採点基準(配点 2点)
知識・理解度(内容)(1点)
- 1点: ユーザー部門が主体となるテスト工程(受入テスト)を正確に理解し記述できている。
- 0点: 題意から外れた解答となっている。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 文脈に適合する適切な専門用語が用いられている。
- 0点: 文脈に合わない不適切な表現となっている。
解説
正解の根拠
システム開発の最終段階において、ユーザー部門が主体となって実際の業務シナリオに沿ってシステムを評価し、要件を満たしているかを確認するプロセスが 受入テスト です。ここで十分な検証を行うことが、導入後のリスク低減につながります。
高得点のポイント
- ユーザー部門によるシステムの最終評価プロセスとして 受入テスト を正しく理解していること。
- 適切な専門用語を選択できていること。
設問2(2)gは,正答率がやや低かった。導入システムの効果が当初想定に達しないことは,本番運用におけるリスクの一つである。このリスクを低減するための対応策として,遅くとも本番移行の前までに効果を含めて導入システムを評価し,本番移行の可否を判断する必要があることを理解してほしい。