令和7年度 秋期 応用情報技術者試験 午後 問題 問2 コアコンピタンスと事業領域拡大

ストラテジ経営戦略

この問題は2025(R7)秋 応用情報技術者 午後に出題されたものです。出題時点の法令・制度に基づく内容のため、現行の内容と一致しない場合があります。

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学習ガイド

スポーツウェアメーカーがワークウェア市場へ事業領域を広げる戦略を題材にした経営戦略の問題です。自社のコアコンピタンスを見極め、それが新市場でも通用する根拠を確かめ、企業ドメインの再定義とブランド浸透策まで一連の流れで問われます。多角化戦略の定石である「強みの転用」がどの設問にも通底しているため、この記事ではK社の経営資源の棚卸しを最初に行い、各解答をその資源との対応で説明します。

この記事で押さえる論点

  • コアコンピタンスの明確化と企業ドメイン再定義の意義を説明する
  • 新市場(ワークウェア)参入の魅力を市場変化から特定する
  • 口コミによるブランド浸透策の効果を述べる

問題本文

スポーツウェアメーカーの事業領域拡大戦略に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

K社は,主に中価格帯の製品を提供するスポーツウェアメーカーである。若年層の人口減少に伴う国内スポーツウェア市場の縮小によって,収益が頭打ちになっている。K社はこれまでも事業領域の拡大に取り組んできたが,新しい事業については社内の意思統一を図れず,結果を出せていない。今後の成長のためには,経営の方向性を明確にして,社内の意思統一を図った上で,事業領域を拡大する戦略を策定する必要がある。K社の経営陣は,経営企画室のA室長に事業領域拡大戦略を策定するよう指示した。

〔外部環境の分析〕

A室長は,まず自社の外部環境の分析を行った。その結果は次のとおりであった。

  • スポーツウェア市場の縮小が進んでいて,スポーツウェアの需要は横ばい又は減少傾向にある。
  • スポーツウェアは,動きやすさに加え,保温性,通気性などの機能,及び軽快さやスマートさをアピールできるデザインの良さが要求される。さらに,スポーツチームのユニフォームでは,色やロゴなどのオリジナル性が要求される。
  • ワークウェアのメーカーが低価格帯のスポーツウェアを開発し,スポーツウェア市場に参入している。逆に,他のスポーツウェアメーカーがファッション性に富むワークウェアの発売を計画している。このように市場の垣根を越えた競争が生じている。
  • ワークウェアはスポーツウェアと同程度の市場規模がある。法人需要が中心であり,業務の必需品として定期的に買替えが行われるので継続的な取引ができる。
  • 従来,ワークウェアは消耗品扱いであり耐久性や低価格であることが重視されてきた。しかし,近年は従業員満足度を高めるために,ワークウェアにも快適さやデザインの良さを求める企業が増えており,需要が拡大している。しかし,ワークウェアメーカーは,いまだに市場の変化に対応する生産体制や販売体制を構築するまでには至っていない。

〔経営資源の分析〕

A室長は,ワークウェア市場が事業領域拡大の候補となり得るのか,自社の事業性を確認して判断するために,自社のバリューチェーン分析を行いワークウェア事業に適用できる自社の強みとなる活動を,次のように確認した。

  • スポーツウェアで培った製品企画力,型紙の設計力,及び生地の裁断ノウハウによって,動きやすさやデザインにこだわった製品を企画・設計できている。
  • 保温性,通気性,防水性及び速乾性に優れた繊維の研究を行い,共同開発した高機能生地を,繊維メーカーから調達して自社の製品に採用できている。
  • 多様な製造委託先と提携してサプライチェーンを構築し,様々な顧客要望に対応できる生産体制を備えている。長年の取引によって築いた信頼関係を基にした生産体制で,大量生産の効率性と様々な顧客要望に対応できる柔軟性を両立させたマスカスタマイゼーションの実績がある。
  • 長い歴史と信頼性のあるブランド力があり,BtoB, BtoCともに広範な国内販売網・販売チャネルを築いている。多数の商談を並行して進め,同じスペックの小ロットの注文を集めて大きなロットにすることによって採算を確保できている。

次に,A室長は自社の強みを,経済的価値(Value),希少性(Rarity),模倣困難性(Imitability),組織体制(Organization)の観点で分析するVRIOフレームワークに沿って評価することにした。ワークウェア市場で競合と想定される他社と比較した自社の競争優位性に対する評価を表1に示す。

表1 自社の競争優位性
図の説明テキスト

表1 自社の競争優位性

活動 自社の強み V R I O 競争優位性に対する評価
企画・設計 製品企画力,型紙の設計力,生地の裁断ノウハウ 既存のワークウェアよりも動きやすさやデザインに優れた製品を企画できる。同等の技術力を有する他社が存在する。
開発 繊維メーカーとの高機能生地の共同開発 短期的には競争優位性を維持できるが,数年で他社に追随されるおそれがある。
生産 長年の取引によって築いた生産体制 マスカスタマイゼーションを可能にする生産体制は,他社では容易に構築できない。
販売 広範な国内販売網・販売チャネル 小ロット注文を集積して,他社では採算が合わない注文にも応えることができる。
注記 VRIOのそれぞれについて,自社の強みが満たす要素に“〇”を記入している。

A室長は,表1から自社の強みを次のように分析した。

  • “生産体制”と“国内販売網・販売チャネル”は,希少性のある模倣困難な強みである。“マスカスタマイゼーション力”によって,ワークウェアに色やロゴなどのオリジナル性を求める顧客の要望にも柔軟に対応できる。また,“小ロット注文の集積力”は,ワークウェアの生産販売にも生かすことができる。
  • “広範な国内販売網・販売チャネル”で集めた顧客の要望に,“長年の取引によって築いた生産体制”で対応できることが,他社が容易にまねできない自社のコアコンピタンスであり,競合他社に対して持続的な a となる。

〔ワークウェア市場への参入の検討〕

A室長は,ワークウェア市場への参入に向けた施策の検討内容を次のようにまとめた。

  • ワークウェア市場には,自社にとって魅力を高める変化が生じているため参入の余地がある。
  • b を生かして、既存のワークウェアにはない動きやすさやデザインに優れた製品を提供する。
  • ワークウェアに色やロゴなどのオリジナル性を求める顧客の要望に応える
  • 定期的な買替え需要を取り込むため、c との取引を拡大する。

〔ブランド展開案〕

A室長は,自社の新事業の展開を市場に認知させるブランド戦略が重要であり,スポーツウェアメーカーとしての認知度と信頼を得ている自社の企業ブランドのイメージを再構築する必要があると考えた。自社の企業ドメインを“人々の活動のパフォーマンスを最大限に発揮させるウェアの提供”に再定義して,新たな企業ブランドとワークウェアの製品ブランドを展開する次の案を検討した。

  • 新たな企業ブランドにおいて自社が長期的に提供する価値を,dによって取引先,従業員,顧客,株主など広範なステークホルダに向けて発信する。
  • 自然にユーザーが口コミを拡散する手法であるバイラルマーケティングを通じて,製品が提供する価値に焦点を当てたメッセージを業界関係者に発信する。製品サンプルの提供などを受けて,使用した人たちに情報を広めてもらうことによって,ワークウェア市場への製品ブランドの浸透を図る。

A室長は,以上の事業領域拡大戦略を策定し,経営陣に報告した。

設問と解答・解説

設問1

本文中の空欄aに入れる適切な字句を,本文中の字句を用いて,5字で答えよ。

模範解答

競争優位性

採点基準(配点 3点)

正確性(内容)(3点)

  • 3: 本文から「競争優位性」を正確に抜き出している。
  • 1: 該当箇所を部分的に抜き出しているが、過不足があるか他の文字が含まれている。
  • 0: 未解答、または見当違いの箇所を抜き出している。

解説

空欄aには、自社のコアコンピタンスを活かした競争上の優位性を意味する語句が入ります。

高得点のポイント

  • 本文から「競争優位性」というキーワードを過不足なく抜き出すこと。

設問2

(1)

本文中の下線①について,A室長が魅力を高めると考えたのはワークウェア市場のどのような変化か。45字以内で答えよ。

模範解答

ワークウェアに快適さやデザインの良さを求める企業が増加しており、需要が拡大している。

採点基準(配点 3点)

知識・理解度(内容)(2点)

  • 2: ワークウェア市場において、快適さやデザインの良さを求める企業が増加しているという変化を的確に捉えている。
  • 1: 市場の変化について言及しているが、快適さやデザインの良さといった具体的なニーズへの言及が不足している。
  • 0: 未解答、または競合他社の動向や自社のコアコンピタンスなど、市場の変化とは異なる内容を記述している。

論理性(構造)(1点)

  • 1: ニーズの変化に伴い、需要が拡大していることが論理的に記述されている。
  • 0: 論理的なつながりが不明確であるか、需要拡大への言及がない。

解説

ワークウェア市場への参入において、市場の変化を的確に捉えることが重要です。

高得点のポイント

  • ワークウェアに対して快適さデザインの良さを求める企業が増加していることを明記する。
  • 上記のニーズの変化により、結果として需要が拡大しているという市場の変化を捉える。
  • 競合他社が変化に対応できていない点や、自社のコアコンピタンスに関する記述は本設問が問う「市場の変化」とは異なるため避けること。

(2)

本文中の空欄bに入れる適切な字句を,本文中の字句を用いて,15字以内で答えよ。

模範解答

色やロゴなどのオリジナル性

採点基準(配点 3点)

正確性(内容)(3点)

  • 3: 本文から「色やロゴなどのオリジナル性」を正確に抜き出している。
  • 1: 該当箇所を見つけているが、抜き出し方に過不足がある。
  • 0: 未解答、または見当違いの箇所を抜き出している。

解説

空欄bには、企業のニーズに対応するための要素が入ります。

高得点のポイント

  • 本文から「色やロゴなどのオリジナル性」を15字以内で過不足なく抜き出すこと。

(3)

本文中の下線②について,この対応を可能にするK社の経営資源を次の中から選び,答えよ。

  1. 研究開発力
  2. 広範な国内販売網・販売チャネル
  3. 製品企画力
  4. マスカスタマイゼーション力

模範解答

選択肢イ: 広範な国内販売網・販売チャネル

配点 1

解説

スポーツウェアメーカーであるK社が新たな市場(ワークウェア市場)へ参入し、企業に対して製品を届けるための経営資源を選ぶ問題です。

各選択肢の解説

  • ア(研究開発力): 優れた製品を開発するための資源ですが、製品を市場に流通させる直接的な対応(販売・供給)を可能にする主要因ではありません。
  • イ(広範な国内販売網・販売チャネル): 正解です。企業向けにワークウェアを広範囲に提供・販売するためには、既存の広範な国内販売網や販売チャネルといった経営資源を活かすことが重要です。
  • ウ(製品企画力): どのような製品が売れるかを企画する力であり、流通・販売網とは異なります。
  • エ(マスカスタマイゼーション力): 顧客ごとの要望に合わせた製品を大量生産の効率で提供する力ですが、広範囲への販売対応そのものを指すものではありません。

(4)

本文中の空欄cに入れる適切な字句を10字以内で答えよ。

模範解答

調達コストの削減

採点基準(配点 3点)

知識・理解度(内容)(2点)

  • 2: 規模の経済性がもたらす効果として、調達におけるコスト削減の側面を正確に理解し記述している。
  • 1: コスト削減について言及しているが、調達に関するものであることが明確ではない。
  • 0: 未解答、または調達とは関係のない効果を記述している。

論理性(構造)(1点)

  • 1: 文字数制限内で簡潔かつ分かりやすく表現できている。
  • 0: 不必要な言葉が多く、文意が不明瞭である。

解説

規模の経済性がもたらす効果として、素材の調達における利点を答える問題です。

高得点のポイント

  • 規模の経済性によってもたらされる調達コストの削減(または低減)を明確に記述する。
  • 素材の調達とは関係のない効果を含めないこと。

設問2(1)は,正答率がやや高かった。“競合他社が市場の変化に対応できていない”や“自社のコアコンピタンスを発揮できる”という誤答が散見されたものの,ワークウェア市場の変化を正しく捉えた解答が多かった。企業が新たな領域に参入する上で,市場の変化を的確に捉える重要性について理解を深めてほしい。設問2(4)は,正答率が低かった。素材の調達とは関係のない効果を答えた解答が目立った。調達における規模の経済性がもたらす効果に着目して,正答を導き出してほしい。

設問3

〔ブランド展開案〕について答えよ。

(1)

本文中の下線③について,企業ドメインを再定義することは,社内に向けてどのような意義があるか。本文中の字句を用いて,30字以内で答えよ。

模範解答

経営の方向性を明確にして社内の意思統一を図る。

採点基準(配点 3点)

正確性(内容)(3点)

  • 3: 本文から「経営の方向性を明確にして社内の意思統一を図る。」を過不足なく抜き出している。
  • 1: 該当箇所を抜き出しているが、文末の処理や助詞の抜けなど、部分的な過不足がある。
  • 0: 未解答、または見当違いの箇所を抜き出している。

解説

企業ドメインの再定義が社内にもたらす意義を抜き出す問題です。

高得点のポイント

  • 本文から「経営の方向性を明確にして社内の意思統一を図る。」という箇所を過不足なく抜き出すこと。

(2)

本文中の空欄dに入れる最も適切な字句を次の中から選び,答えよ。

  1. TCFD開示
  2. 決算短信
  3. 統合報告書

模範解答

選択肢ウ: 統合報告書

配点 1

解説

企業がステークホルダーに対して、財務情報だけでなく非財務情報も含めて中長期的な価値創造のストーリーを伝える媒体を問う問題です。

各選択肢の解説

  • ア(TCFD開示): 気候変動関連のリスクと機会に特化した情報開示であり、全社的なブランド戦略や企業ドメインを含む総合的な報告媒体としては不十分です。
  • イ(決算短信): 企業の決算発表時に財務状況を速報として伝えるものであり、非財務情報や中長期的な価値創造ストーリーを詳細に語る媒体ではありません。
  • ウ(統合報告書): 正解です。企業ドメインの再定義や経営戦略、環境・社会への取り組みなど、財務と非財務の情報を統合的に報告し、企業価値を伝えるために適した媒体です。

(3)

本文中の下線④について,使用した人たちに情報を広めてもらうことは,ワークウェア市場への製品ブランドの浸透にどのような効果があるか。本文中の字句を用いて,20字以内で答えよ。

模範解答

信頼できる情報として自然に共有される。

採点基準(配点 3点)

正確性(内容)(3点)

  • 3: 本文から「信頼できる情報として自然に共有される。」を正確に抜き出している。
  • 1: 該当箇所を抜き出しているが、部分的な過不足がある。
  • 0: 未解答、または全く異なる箇所を抜き出している。

解説

製品ブランドの浸透における口コミや情報の拡散効果を答える問題です。

高得点のポイント

  • 製品を実際に使用した人による情報発信が、信頼できる情報として受け取られること。
  • その情報が自然に共有されるというマーケティング効果を本文から正確に抜き出すこと。

設問3(3)は,正答率が低かった。製品ブランドの浸透を図るためには,製品の価値を信頼できる情報として発信すること,また,その情報が自然に拡散されるマーケティング手法が効果的であることを理解してほしい。