令和3年度 秋期 応用情報技術者試験 午後 問題 問2 スナック菓子メーカーにおける新商品のマーケティング戦略とデジタル活用
ストラテジ経営戦略
学習ガイド
スナック菓子メーカーが新たなターゲットに向けて新商品を開発し、デジタルマーケティングを展開する事例です。市場や競合の分析結果に基づくポジショニングの決定理由や、消費者行動プロセスに沿ったプロモーション施策、SNSでの炎上リスクについて問われます。現状分析の記述から強みと機会を抽出し、プロモーションの各段階の目的と具体的な施策を対応させて読み解きます。
この記事で押さえる論点
- 3C分析からターゲット層とポジショニングを導く過程を説明できる
- テストマーケティング前に知的財産権を保護する施策を述べられる
- 消費者行動プロセスに沿ったプロモーション施策を説明できる
- SNSでのクレーム対応の失敗がデジタルマーケティングに与えるリスクを述べられる
出題情報
- 出題
- 2021(R3)秋 応用情報技術者 午後 問2
- 配点
- 20点満点
- 模範解答
- 公表(設問ごとに掲載)
出題趣旨・採点講評(IPA 公表)
近年,インターネットを活用して顧客との接点を増やしブランド価値を高めるデジタルマーケティングの利用が広がっている。
本問では,食品会社の売上拡大を題材に,マーケティング戦略の策定,商品開発戦略,プロモーション戦略,デジタルマーケティングの運用における留意点などに関する基本的な理解について問う。
問2では,食品会社の売上拡大を題材に,マーケティング戦略の策定,商品開発戦略,プロモーション戦略などデジタルマーケティングの運用における留意点などについて出題した。全体として正答率はやや高かった。
問題本文
食品会社でのマーケティングに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
Q社は,スナック菓子の製造・販売会社である。Q社は,老舗のスナック菓子メーカとして知名度があり,長年にわたるファンはいるが,ここ5年間の売上は減少傾向であり,売上拡大が急務である。Q社の社長は,この状況に危機感を抱き,戦略の策定から実施までを行う戦略マーケティングプロジェクトを立ち上げ,営業企画部のR課長を戦略マーケティングプロジェクトの責任者に任命した。R課長は,商品開発担当者,営業担当者から成るプロジェクトチームを編成し,現状分析とマーケティング戦略の策定に着手した。
〔現状分析〕
R課長は,次のような3C分析を実施した。
(1) 顧客・市場
- 少子高齢化による人口減少で,菓子の需要は低下傾向である。
- 従来,主要な顧客は中高生を中心とした子供だったが,大人のスナック菓子の需要が最近増加しており,今後も成長余地がある。
- オフィスでおやつとして食べたり,持ち歩いて小腹のすいたときに適宜食べたりするなど,スナック菓子に対する顧客ニーズが多様化している。
- 顧客の健康志向が高まっており,自然の素材を生かすことが求められている。
(2) 競合
- 競合他社からQ社の主力商品の素材と似た自然の素材を使った,味もパッケージも同じような新商品が発売され,売上を伸ばしている。
- 海外大手メーカから,海外で人気のスナック菓子が発売される予定である。
(3) 自社
- 日本全国に販売網をもつ。
- 海外でもパートナーシップを通じて販路を拡大している。
- 食品の素材に対する専門性が高く,自然の素材を生かした加工技術をもつ。
- 新たな利用シーンに対応する商品開発力をもつ。
- 商品の種類の多さや見た目のかわいさなどが中高生から支持されており,熱烈なファンが多い。
〔マーケティング戦略の策定〕
R課長は,〔現状分析〕の結果を基に,戦略マーケティングプロジェクトのメンバと協議し,新商品のターゲティングとポジショニングについて,次のように定めた。
(1) Q社の主要な既存顧客に加えて,新たな顧客のターゲット a として,普段あまりスナック菓子を食べていない,健康志向の20〜40代の女性を設定する。
(2) このターゲット a に対して,“素材にこだわるという付加価値”を維持しつつ,①“今までとは違う時間や場所で食べることができる機能性”というポジショニングを定める。
これらを踏まえて,R課長は今後のマーケティング戦略を,次のように定めた。
(1) 希少価値によって話題を集めることで,顧客の購買意欲を高める。
(2) 従来の実店舗や広告に加えて,インターネットを活用したデジタルマーケティングの採用によって,顧客との接点を増やす。
〔商品開発〕
R課長は,マーケティング戦略に基づき,新商品のコード名を新商品Eとして開発することとし,健康志向の20〜40代の女性を対象に,次の(1)アンケート調査と(2)商品コンセプトの検討を実施した。今後,(3)〜(5)を実施予定である。
(1) アンケート調査
- “大袋やカップは持ち運びにくい”,“今のスナック菓子の量は多すぎる”などの不満があることが分かった。
- “健康のためにカロリーを少な目にしてほしい”などのニーズが強いことが分かった。
(2) 商品コンセプトの検討
- 商品コンセプトとして,“素材にこだわった健康志向で,蓋を閉めて持ち運びができる小さな1人用サイズ”を定めた。
- 顧客には“繰り返し密閉でき携行しやすい”というメリットがある。
(3) 試作品の開発
- 商品コンセプトにあわせて複数の味,素材,パッケージなどの試作品をつくる。
(4) テストマーケティング
- ネット通販限定で,試作品を用いてテストマーケティングを実施する。ただし,他社にアイディアやネーミングを模倣されるリスクがあるので,テストマーケティングを実施する前にそのリスクに対処するための②施策を講じる。
(5) 新商品の市場導入
- テストマーケティング後に,新商品Eを顧客向けに販売する。
- ③発売当初は,期間限定で出荷数量を絞った集中的なキャンペーンを実施する。
〔プロモーション〕
R課長は,インターネットを活用したデジタルマーケティングを展開し,商品が売れる仕組みをデジタル技術を活用して作ることにした。消費者行動プロセスに沿ったプロモーションを,次のように設計した。
(1) 認知 (Aware)
- インタビューへの応対などを通じて雑誌のデジタル版などのメディアに自社に関する内容を取り上げてもらうbや,広告などの施策によって顧客のブランドへの認知度が高まる。
(2) 訴求 (Appeal)
- Q社の運営するSNSの強化に加えて,商品紹介の専用Webページを新設することで,顧客はQ社の商品に,より関心をもつようになる。
(3) 調査 (Ask)
- Q社が,オウンドメディア(自社で所有,運営しているメディア)を充実することで,顧客が,SNSや商品紹介のWebページ上でQ社の商品のレビューに触れる機会が増える。
(4) 行動 (Act)
- Q社が,メールマガジンやデジタル広告などの施策を実施して顧客との接点を増やすことで,顧客の商品購入が促進される。
(5) 推奨 (Advocate)
- 顧客は,ブランドに対するcが高まり,他者へブランドを推奨する。例として,dが挙げられる。
R課長は,プロジェクトチームでSNSを担当するS主任に対して,“この消費者行動プロセスに沿ったプロモーションの施策に基づき,Q社の運営するSNS上で新商品Eの情報を公開してほしい。ただし,当社の評判を落とすことにつながる対応は避けるように十分に気を付けてほしい。”と指示をした。
Q社の運営するSNS上では顧客が直接書き込みできる。新商品Eの情報公開からしばらくして,Q社がSNSに投稿した内容に対して,ある顧客から“差別的な表現が含まれている”というクレームがあった。これに対して,S主任は投稿の意図や意味を丁寧に説明した。
その後,その顧客から再度クレームがあり,S主任はR課長にこれを報告した。R課長は“今後の対応を決める前に,④SNS特有の事態と,新商品Eの展開を阻害するおそれのあるリスクを慎重に検討するように”とS主任に指示をした。
設問と解答・解説
設問1
〔マーケティング戦略の策定〕について,(1),(2)に答えよ。
本文中の 空欄a に入れるマーケティングの用語として適切な字句を8字以内で答えよ。
模範解答
セグメント
採点基準
- 2点: 「セグメント」(「市場セグメント」「顧客セグメント」も可)と答えている。
- 1点: 「セグメンテーション」(市場を細分化する行為の語で、ターゲットとする集団の名称としては不正確)と答えている。
- 0点: ターゲティング・ポジショニング・ペルソナなど。
- 1点: 「セグメント」という用語を正確に記述している。
- 0点: 適切な用語が記述されていない。
解説
解説
- 顧客を属性で細分化した集団を セグメント と呼びます。細分化する行為そのものはセグメンテーションと呼び、集団の名称ではありません。
- 空欄aの前後では「新たな顧客のターゲットaとして、普段あまりスナック菓子を食べていない、健康志向の20〜40代の女性を設定する」とあり、顧客を特定の属性で区分した集団(セグメント)をターゲットとして設定していることがわかります。
- したがって、「セグメント」が正解となります。
高得点のポイント
- 顧客を細分化した集団を指す「セグメント」という用語を正確に記述すること。
本文中の下線①について,このポジショニングに定めた理由は何か。顧客・市場と自社の両方の観点から,本文中の字句を用いて40字以内で述べよ。
模範解答
顧客ニーズの多様化に対して,新たな利用シーンに対応する商品開発力をもつから
採点基準
- 2点: 顧客・市場の観点(顧客ニーズの多様化)と自社の観点(新たな利用シーンに対応する商品開発力)の両方が含まれている。
- 1点: 顧客・市場の観点、または自社の観点のいずれか一方が含まれている。
- 0点: 両方の観点が含まれていない。
- 1点: 顧客のニーズと自社の強みを結びつけ、ポジショニングの理由として論理的な構成になっている。
- 0点: 理由として論理的な構成になっていない。
解説
解説
- 下線①は、「今までとは違う時間や場所で食べることができる機能性」というポジショニングです。
- 問題文から「顧客・市場と自社の両方の観点から」答える必要があります。
- 〔現状分析〕の(1) 顧客・市場において、「オフィスでおやつとして食べたり、持ち歩いて小腹のすいたときに適宜食べたりするなど、スナック菓子に対する顧客ニーズが多様化している」とあります。
- 〔現状分析〕の(3) 自社において、「新たな利用シーンに対応する商品開発力をもつ」とあります。
- この2つを組み合わせて、「顧客ニーズの多様化に対して、新たな利用シーンに対応する商品開発力をもつから」といった理由が導かれます。
高得点のポイント
- 顧客・市場の観点として「顧客ニーズの多様化」に触れること。
- 自社の観点として「新たな利用シーンに対応する商品開発力」をもつことに触れること。
- これらを理由を説明する文として論理的にまとめること。
設問1(1)は,正答率が低かった。マーケティングの基本用語を覚えるだけでなく,用語の意味や用語に関連する項目の概要も含めて理解を深めてほしい。
設問2
〔商品開発〕について,(1),(2)に答えよ。
本文中の下線②について,リスクに対処するために事前に講じておくべき施策は何か。10字以内で答えよ。
模範解答
特許や商標の出願
採点基準
- 2点: アイディアやネーミングの模倣を防ぐ手段として、特許や商標などの知的財産権について理解している。
- 1点: リスクへの対処の方向性は理解しているが、制度の理解が不十分である。
- 0点: リスクに対する適切な防衛策が理解できていない。
- 1点: 「出願」や「登録」などの具体的な手続きとして提示できている。
- 0点: 具体的な手続きとして提示できていない。
解説
解説
- 下線②は「他社にアイディアやネーミングを模倣されるリスクがあるので、テストマーケティングを実施する前にそのリスクに対処するための施策」です。
- 新商品のアイディア(発明・考案)やネーミング(商標)を法的に保護し、他社の模倣を防ぐためには、公的な機関への登録手続きが必要です。
- したがって、事前に講じておくべき具体的な施策は「特許や商標の出願」(または登録)となります。
高得点のポイント
- アイディアやネーミングの模倣を防ぐ手段として、「特許」や「商標」などの知的財産権に言及すること。
- 単なる概念ではなく、「出願」や「登録」といった具体的なアクションとして記述すること。
本文中の下線③について,Q社がこの施策をとった狙いは何か。本文中の字句を用いて40字以内で述べよ。
模範解答
希少価値によって話題を集めることで,顧客の購買意欲を高めること
採点基準
- 2点: 「希少価値によって話題を集めること」と「顧客の購買意欲を高めること」の両方が含まれている。
- 1点: いずれか一方のみが含まれている。
- 0点: どちらも含まれていない。
- 1点: 「話題を集めることで購買意欲を高める」という因果関係が論理的に構成されている。
- 0点: 因果関係が明確でなく、論理的な構成になっていない。
解説
解説
- 下線③は「発売当初は、期間限定で出荷数量を絞った集中的なキャンペーンを実施する」という施策です。
- この施策の狙いは、〔マーケティング戦略の策定〕の後半に記載されている今後のマーケティング戦略の中に該当箇所があります。
- そこに記載されている「(1) 希少価値によって話題を集めることで、顧客の購買意欲を高める。」という記述が、期間限定・数量限定という施策の直接的な狙いとなります。
高得点のポイント
- 本文中の記述に基づき、「希少価値によって話題を集めること」を含めること。
- その結果としての目的である「顧客の購買意欲を高めること」を含めること。
- これらをつなげて、因果関係のある論理的な文として構成すること。
設問3
〔プロモーション〕について,(1)〜(3)に答えよ。
本文中の 空欄b に入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
模範解答
選択肢ウ: パブリシティ
解説
解説
- 空欄bのある文は、「インタビューへの応対などを通じて雑誌のデジタル版などのメディアに自社に関する内容を取り上げてもらうbや、広告などの施策によって顧客のブランドへの認知度が高まる。」です。
- 企業がメディアに対して自社の情報を提供し、メディア側の判断でニュースや記事として取り上げてもらう活動を パブリシティ と呼びます。
- したがって、ウが正解です。
各選択肢の解説
- ア (カニバリゼーション): 自社の商品同士で売上を奪い合う共食い現象のことであり、誤りです。
- イ (サンプリング): 試供品を配布して消費者に試してもらう手法であり、メディアに取り上げてもらう活動ではないため誤りです。
- エ (ビジョン): 企業が目指す将来の姿や構想のことであり、文脈に合いません。
- オ (ポートフォリオ): 企業が展開する事業や商品の構成のことであり、誤りです。
- カ (ロイヤルティ): ブランドへの愛着や忠誠心のことですが、メディアに取り上げてもらう施策そのものを指す言葉ではありません。
本文中の 空欄c に入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
模範解答
選択肢カ: ロイヤルティ
解説
解説
- 空欄cのある文は、「顧客は、ブランドに対するcが高まり、他者へブランドを推奨する。」です。
- 顧客が他者へ推奨する行動に至るほど、ブランドに対して持つ強い愛着や忠誠心のことを、ブランド・ロイヤルティ と呼びます。
- したがって、カが正解です。
各選択肢の解説
- ア (カニバリゼーション): 自社商品間の競合を指すため誤りです。
- イ (サンプリング): 試供品配布のことであり、顧客の感情や態度を表す言葉ではありません。
- ウ (パブリシティ): メディアへの露出活動のことであり、誤りです。
- エ (ビジョン): 企業の将来構想であり、顧客がブランドに対して抱くものではありません。
- オ (ポートフォリオ): 事業構成などのことであり、文脈に合いません。
本文中の 空欄d に入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
模範解答
選択肢イ: SNS上で,顧客自身に画像や動画などを公開してもらえること
解説
解説
- 空欄dは、顧客が「他者へブランドを推奨する」例として適切なものが入ります。
- 選択肢の中で、顧客自身が他者に向けて情報を発信し、ブランドを推奨する主体的な行動に該当するのは、「SNS上で、顧客自身に画像や動画などを公開してもらえること」です。
- したがって、イが正解です。
各選択肢の解説
- ア: SEO対策によって検索されやすくなるのは企業側の施策の結果であり、顧客による他者への推奨行動ではありません。
- ウ: インターネットに広告を出すのは企業側のプロモーション活動であり、顧客による推奨ではありません。
- エ: ワンクリックで購入してもらうのは購買行動(行動プロセス)の円滑化であり、他者への推奨には該当しません。
本文中の下線④について,クレーム対応によって想定される事態と,その結果生じるリスクを,あわせて40字以内で述べよ。
模範解答
クレームが拡散して,デジタルマーケティングが機能しない。
採点基準
- 1点: インターネット上で想定される事態として、クレームや否定的な情報が「拡散」することなどのSNS特有の事態を記述している。
- 0点: 想定される事態が適切に記述されていない。
- 1点: 事態の結果として生じる経営へのインパクトやリスク(デジタルマーケティングが機能しない等)を勘案し、論理的に導いている。
- 0点: 事態とリスクの論理的なつながりが不明確であり、経営へのインパクトが考慮されていない。
解説
解説
- 下線④は「SNS特有の事態と、新商品Eの展開を阻害するおそれのあるリスク」についての検討を指示する部分です。
- SNS上で書き込まれたクレームに対して適切な対応をとらなかったり、対応を誤って炎上したりすると、クレームや否定的な評判が一気に拡散するという「SNS特有の事態」が想定されます。
- その結果、Q社が目指していた「インターネットを活用したデジタルマーケティング」に対して顧客の反発を招くなどし、当初の目的であるプロモーションの仕組みが機能しない、あるいは新商品の売上が低迷するといった「リスク」が生じます。
- これらをまとめて「クレームが拡散して、デジタルマーケティングが機能しない。」といった解答が導かれます。
高得点のポイント
- SNS特有の事態として、クレームや否定的な情報が「拡散」することに触れること。
- その結果生じるリスクとして、プロモーションの仕組みである「デジタルマーケティングが機能しない」ことや、新商品の展開が阻害されることに言及すること。
- 事態とリスクを論理的につなげて記述すること。
設問3(3)は,正答率がやや高かった。デジタルマーケティングのクレーム対応では,インターネット上で想定される様々な事態を想定するだけでなく,その結果生じる経営へのインパクトやリスクを勘案して,被害の拡大を食い止める対策を速やかに実施することが重要であることを理解してほしい。